金属製なのに暖かいデザイン
さて、本キットはこれまでご覧いただいたように、肉厚(2mm厚)な金属板により成形されています。これにRealforce本体を合体させると、まさに金属塊といった感を受けてしまいます。ところが、実際によく見てみると、なかなかどうして暖かさを感じるデザインとなっているのが不思議なところです。
デザインとしては、以下のような特徴があります。
- キーボードに於ける伝統的な直線的なフォルム。
- 角の面取りは最小限で、直線を殺していない。
- 天板を留める6カ所のビスによる工業製品的なアクセント。
- 一切のロゴが廃されれた禁欲的な外見。
- 天板の荒いヘアライン加工と、アルマイト加工された上品な黒色。
この特徴それぞれについて、簡単に考察してみます。
質実剛健な外見
まずもって素材を活かした削りだし感溢れる直線的な外見が特徴的です。KINESIS辺りが先鞭と思われるエルゴノミックな歪曲キーボードも評価が高いのですが、私などはどうもサルバドール=ダリの絵が思い浮かばれてしまって、キーボードの端にひしゃげた時計が腰を掛けているような感を受けます。マウスは元々曲線的なので違和感がないのですが。
そうした直線的な外見は判断が分かれるかも知れませんが、ロゴがないのは共感を得るところでしょう。流石にFILCOロゴが入っていると、Realforceをダイヤテックが出したかのように思われて宜しくないのかどうか、ともあれ天板は簡素です。Realforceの昔のロゴは少々前時代的なものがありましたがが、今のロゴは近代的で悪くありません。しかし、ロゴがないというのも乙なものです。
黒竹のように品の良い仕上げ
このように質実剛健な感を醸し出しているのですが、キットの天板がけしからん悪戯っ子で、私はたちまち魅了されてしまいました。質実剛健なんてとんでもない。この天板により、キーボードは俄然雅やかな雰囲気を帯びます。
「光を吸収するような」とはダイヤテック社の謳い文句ですが、見る方向によって、光に当たる場所での静かな乱反射から、光の当たらない場所の深く沈むような黒へと静かに遷移しています。写真のように、EIZOのFlexScan S2410Wの青LEDがうっすらと反射する様は、なんとも幻想的です。というのは流石に惚れた手前の褒め過ぎでしょうか。Realforce91の黒色版は、硯のような上品な黒を表現していますが、このキットと遺憾なく調和しています。
そっと掌を乗せてみると、無垢の金属と違って接地面が少ないためか、あまりひんやりとした感がありません。むしろ暖かみがあります。打鍵感については次のページで述べますが、例えるなら、縁起物としても使われる黒竹(Phyllostachys nigra)のような落ち着きがあります。金属というと硬質で冷たげな感を受けますが、まさに竹細工のような安心感を与えてくれる仕上げとなっています。
ダイヤテック社の謳い文句では「写真より実物の方がいい」との感想がありましたが、まさにその通りだと思います。
芸術品だが工業製品
このように芸術品のような仕上げをされてはいますが、ここで最後にきちんと締めているのがビスの存在です。ビスなだけに締めている……というのは冗談です。ともあれ、固定方法が大変そうですが、仮にビスが天面になかったとしたら、逆に「暖かさ」に寄り過ぎてしまったでしょう。ビスの存在によって、いかにユーザに近づいたにせよ、キーボードが工業製品としての矜恃を備えて続けていることが静かに物語られているように思えます。
デザインが堪能出来ないキーボードカバー使いの悲哀
ただ、残念なことがあります。私はハンカチを二つ折りにしてキーボードに被せてキーボードカバーとしています。ここでいうキーボードカバーとは、防塵のために不使用時のみ被せる類のものではなく、まさに打鍵時にキートップを汚さないために用いるものです。
レースならともかく、透明なハンカチは存在しないわけで、ハンカチに覆われる9割方の部分が隠されてしまうため、この美しさを目にする機会がないのです。自業自得ながら、人生の半分は損をしたなと感じています。
ハンカチをキーボードカバーにする奇妙なhackはまた別の機会で述べることにして、次のページでは、据え付け後の重さと、それ故に生じる打鍵時の安定感についてご紹介します。