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2008
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メトカーフの法則とエスペラント運動

分類: 雑記 / タグ: ,

やや旧聞に属しますが、巡回先のウェブログ「AIR-internet-EDGE」にて、「メトカーフの法則から見るウィルコムの戦略考」という、とても興味深い記事を拝見しました。「ムーアの法則」は有名過ぎて、業界の人間でなくても(PCに興味があれば)常識のように通じますが、「メトカーフの法則」(メトカルフェの法則)という法則は初めて知りました。

この法則は、以下の通り定義されています(上記リンク先、Wikipediaからの引用)。

通信網の価値は利用者数の二乗に比例する。また、通信網の価格は利用者数に比例する。

乱暴に諺で喩えると、つまりは「長いものには巻かれろ」ということです。

さて、察しの良いエスペランティスト読者諸姉諸兄なら、この時点で気付かぬはずがないことがあります。すなわち、この法則は、情報通信の枠にとどまらず、エスペラント運動の現状と未来を示していると。

メトカーフの法則を振り返る

例えばWILLCOMは某損保に見向きもされぬ

上記ウェブログの通り、Softbankはロシア焦土作戦もかくやというほどの赤字上等・加入者増至上主義を掲げ、昨年来破竹の勢いで純増数を増やしています。それに対して、私も愛して止まないWILLCOMは積極的な拡販策に出ていないどころか、肝っ玉の小さい会計屋のようにどうにも小さく綺麗にまとまって歯痒い限りです。

金融ユーザ系SEとして携帯電話用サービスを例示しますと、東京海上日動の携帯電話向け代理店営業システム「ポケットコンタクト」がWILLCOMに対応していないのも当たり前です。最新(2008年2月)のTCA発表による概数ですとSoftbankの1761万契約(IP接続は1456万)に対して、WILLCOMは477万(IP接続は不明ですが、概ね8掛けが相場でしょうか)に過ぎず、費用対効果を論じるまでもなくパレート分析(ABC分析)上での切り捨て対象となっていることは明白です。

次世代DVDの規格戦争にもメトカーフの影が見え隠れ

他の例ですと、次世代DVDの規格争いも一部該当していると思います。意外と早くお手々を挙げたHD-DVDですが、敗北の要因は上位から以下の通りになると勝手に考えています:

  1. 少なからぬは政治力(或いは政治に使う実弾である袖の下)の欠如。結局はハリウッド=メジャーの抱き込みに失敗したのがそもそもの躓きであり、最後のワーナー=ショックでもあった。
  2. 規格の優位性。単純に「容量は大きい方ければいいことだ」の通り。DVDと近しくてコストが掛からないとは言え、量産効果には敵わない。
  3. 市場占有率、すなわちメトカーフの法則適用対象。

1番目は経営学や政治の世界に疎いのでご愁傷様としか言えませんが、2番目は一人の技術者として同情を禁じ得ません。東芝の開発チームはどんな思いで報道を見聞きし、そして今週中にも発表があるとされる玉音放送を聴くのでしょうか。弱小ビクターがVHSで市場を制した「陽はまた昇る」は感動の作品であり、かつ、私は最近のソニーがあまり好きではありませんが、ともあれソニーのベータマックスの開発チームの心中を察するに余りあります。放送用規格としては勝利を収めたように、規格としての優位性はVHSよりも上位であるように見えるため、悔しさはひとしおでしょう。

……ということは本論から逸れるので閑話休題。3番目の市場占有率です。いくつかの要因により市場占有率が傾くと、コンテンツ=プロヴァイダ、即ち今回の例だとハリウッド=メジャーの支持版図が変わり、小売店の取り扱い量が変わり、市場占有率がさらに傾く、という螺旋が描かれました。これは東芝を袖にしたワーナーの社長自らが宣言した通りです(政治力については推し量りようがないので、シェアが全てかと額面通り受け取る気にはなりませんが)。

メトカーフの法則、その言語への適用

エスペラントは何故広まらないか

このように、「長いものには巻かれろ」があちこちで生起していることに気付きます。以上は感覚論から感じていましたが、確かにメトカーフの法則は「法則」でござい、と通用するだけの説得力のある経験則です。膝を打って感心しましたが、膝を打った手をしばらく上げることが出来ませんでした。というのは勿論比喩ですが、「ほほうそうか、そうれはそうだな」と思った0.3秒後にはエスペラントとの関連性に気付き、少なからず衝撃を受けたものです。

その衝撃は、契約者数に着目したコンテンツ=プロヴァイダによるコンテンツの提供の充実という構図が、以下の事象を描いたものであるように気付いたことによります:

  • 何故エスペラントによるニュースサイトĜangaloは更新を停止してしまったのでしょうか。
  • 何故ポーランドラジオ(Pola Radio; 波Radio Polonia)はエスペラント版の放送を廃止したのでしょうか。
  • 何故世界エスペラント大会が日本で開催されても、報道が盛んにならないのでしょうか。
  • 何故書店でエスペラントの本が棚に無いのでしょうか。
  • 何故NHKラジオでエスペラント講座が開かれないのでしょうか。
  • 何故エスペラントがEUの作業語に採用されないのでしょうか。
  • 何故エスペラントが広がらないのでしょうか。

始めの方で挙げた個別具体的な案件は、諸々その他の理由もありましょう。しかし、後ろの方に挙げた一般的な案件になると、エスペラントの広がりの現時点での限界が如実に示されてはいませんでしょうか。

無論、エスペラントが失敗だとは私は思っていません。しかし、大成功を収めたというものでもなく、120有余年を閲し、3世紀目に入ったこの現代に於いても、世界でせいぜいが100~200万人程度しか話者がおりません。これは、エスペラント話者数それ自体が、話者の増加因子、それも重要な因子の一つとなっているからに他ならないのではないでしょうか。

またしても……我々の前に立ちはだかろうというのか! メトカーフ!

と、実は読んだことが無くてもネタとしては使われるMMRなる漫画の常套句を掲げましたが、またしてもメトカーフさんがお出ましです。エスペラント話者が少ないからエスペラントが広がらない。広げようとしてもエスペラント話者が少ないから、話者数に着目したコンテンツが充実せず、新たな話者の獲得が難しい。WILLCOMとうり二つです。MMRほどこじつけではないでしょう。

先のウェブログの記述や、Wikipediaの記事の通り、そもそもメトカーフの法則は集積とその効用に関する理論を応用したものですので、当該理論(ライリーの法則)に先祖返りしたようなものですね。

さて、こうした関連性にもう一つの陥穽があることを、次のページへお伝えしなければなりません。

#95 2008/02/19 08:23:11, Gardejo

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